財務省は2019年度分の法人税租税特別措置にかかる適用実態調査報告書をまとめました。租特の適用件数は延べ206万2573件、適用総額は10兆6344億円で、いずれも11年度の調査開始から過去最多となっています。
租特は、特定の政策目的を実現するため、期限を区切って企業や個人の税負担を軽減することでインセンティブを与える政策減税の一種。予算措置の補助金に比べ、手続きの手間が小さく国会などのチェックも甘いため、「隠れた補助金」と批判されてきました。
民主党政権時代の10年に租特透明化法が成立。財務省は同法に基づき、報告書を毎年国会に提出しています。「公平・中立・簡素」を原則とする税制の例外である租特について、利用実態を明らかにし、その見直しにつなげるのが狙い。ただ、対象は法人税に関連するものに限られています。
報告書によると、11年度の適用件数と適用総額はそれぞれ125万件、6兆1549億円でしたが、その後の第2次安倍政権で、企業の研究開発や賃上げ、設備投資を租特で後押しする姿勢が強まり、適用件数、適用総額ともに大幅に増加しました。11年度と19年度を比べると、適用件数は1.6倍、適用総額は1.7倍となっています。
安倍政権は、企業の国際競争力を高めるためとして、法人税率の引き下げを実行。その代わりに租特の見直しを進めて課税ベースを広げる方針でしたが、それとは裏腹に租特の肥大化が進んでいるとみられます。
報告書は租特の適用を受ける法人名を公表していません。補助金に比べて実効的な監査が効かず、財政事情が厳しい中で各省庁が租特に力を入れる傾向があります。政策効果の検証も十分とは言いがたく、国家の根幹である租税制度の大きな課題となっています。
<情報提供:エヌピー通信社>