従前より我が国は、個人の雇用を守るためには、今存在する企業をできるだけ存続させるべきだ、という考え方が主流でした。いわば、雇用維持責任が企業に課されていたといえます。ですから、経営者は企業を長期的に維持することを優先し、将来の成長のための投資より、自己資本の蓄積に向かう傾向がありました。それが生産性を引き上げられない一因ともなっていました。
 経済成長のためには新陳代謝が必要であり、経済全体のパイが拡大しない以上、生産性の悪い企業の市場からの退出は避けられません。そうした前提の下に、政策当局も労働者も対応しなければなりません。
コロナ禍で創設された実質無利子、無担保のゼロゼロ融資には、本来は市場から退出すべき生産性の悪い企業も守るという側面もあったことは否定できません。しかし、政策当局は生産性の悪化した企業を存続させることにより労働者を守るのではなく、そうした企業の市場からの退出を容認しながら、直接そこで働く労働者を守るという方向に政策の方針を変えるべきだと思います。市場からの退出を迫られる企業の労働者に対して、失業保険を充実することに加え、リスキリングなどの支援を行い、生産性の高い企業への転進を容易にするような雇用の流動化対策が必要になります。また、労働者の側も現在所属する企業でしか使えない特定の人脈の醸成や技能の修得に固執するのではなく、どこの企業でも通用する幅広い人脈と汎用的なスキルを身につける努力が求められます。(了)
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)
 
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